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大前研一メソッド 2020/09/14

トヨタの時価総額の2倍超えは行き過ぎ?テスラ株は500ドルが天井だったのか

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)

編集/構成:mbaSwitch編集部

トヨタの時価総額の2倍超えは行き過ぎ? テスラ株は500ドルが天井だったのか?

米ナスダック市場に上場しているテスラ株が急騰しています。2020年3月に一時100ドルを割ったテスラ株は、9月1日に一時500ドルを超えました。9月11日現在、ピークから約3割下落した水準にあります。テスラ株は一時的な調整を経て、再び500ドルを上抜けるのか?それとも、500ドルが天井だったのか?時価総額2位のトヨタ自動車と比較して高すぎないのか、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

テスラの時価総額が、一時、トヨタの2倍超え

テスラの時価総額が、一時、トヨタの2倍超え

2020年7月1日、米国市場でアメリカの電気自動車(EV)メーカー、テスラの時価総額が一時2105億ドル(約22兆6000億円)となり、同日の東京市場で21兆7185億円だったトヨタ自動車の時価総額を抜いて、自動車メーカーの世界首位に立った。

コロナ禍でも、2020年第2四半期(4〜6月)の業績が好調(同社初の4四半期連続黒字)だったことからテスラの株価はその後も続伸、2020年9月1日にはテスラの時価総額は一時46兆円に達して、同22兆円のトヨタの2倍を超えた。

米カリフォルニア州シリコンバレーでテスラが創業したのは2003年。調達資金のほとんどを研究開発投資に費やしてきて決算は赤字続きだったが、ここにきてようやく収益化のステージに入ったと目されている。テスラの2019年の世界新車販売台数は過去最高の約36万7500台。2018年の約24万台から5割増で、2020年は50万台突破を目標に置いている。

EVの販売台数は、テスラが堂々の世界トップだ。しかし、トヨタグループの2019年の世界新車販売台数は約1074万台。テスラは30分の1の規模でしかない。トヨタは世界28カ国に50を超える生産拠点を構えているが、テスラの生産拠点は米国と中国の上海だけ(2021年にドイツのベルリンで新工場が稼働予定)。

トヨタは創業1937年、83年の歴史を積み重ねて生産管理技術を磨き、ガソリン車からハイブリッド車(HV)、EVに燃料電池車と幅広く事業展開してきた。それに対してテスラは新興のEV専業メーカーである。量産化に不可欠な生産管理技術の点では、まだ課題も多い。そんなテスラが時価総額で「トヨタ超え」を果たしたことは、自動車業界の大きな構造変化を象徴するトピックスといえるだろう。

株式時価総額は株価に発行済株式数を掛け合わせたもので、現在の業績に対する評価だけではなく、将来に対する期待値が株価には込められている。年間1000万台以上のクルマを製造販売している高収益企業のトヨタより高いテスラの期待値は何かといえば、1つはもちろんEVだ。

テスラはEVだけではなく「CASE」銘柄の代表格

テスラはEVだけではなく「CASE」銘柄の代表格 Connected cars concept. ITS (Intelligent Transport Systems). Autonomous car.[/caption]

100年に1度と言われる自動車業界の変革期を象徴するキーワードは「CASE」と称される。「Connected(接続)」「Autonomous(自動運転)」「Shared(共有)」「Electric(電気自動車)」の4つの言葉の頭文字を組み合わせた造語だが、テスラは「E」はもちろんのこと、「C」「A」「S」のカテゴリーでも次世代技術を先取りしたユニークな取り組みが高く評価されている。

たとえばシェアサービス事業については、イーロン・マスクCEOは完全自動運転のEVによるロボットタクシー(ロボタクシー)事業を2020年に実現するとぶち上げた。テスラ車をリース契約しているオーナーは、空いている時間帯にマイカーをロボタクシーの配車サービスに充てて、収益(運賃)を上げられるビジネスモデルだという。

無人のロボタクシーを操るのは、同社の自動運転システムである。自動運転技術の開発競争では、Googleの兄弟会社である自動運転車開発企業「Waymo(ウェイモ)」が先頭を走る。ウェイモとともに、テスラもフロントランナーの一角を占めている。自動運転の技術は膨大な走行データを解析することで磨かれていく。ウェイモの強みは圧倒的な公道での走行実績と言われているが、テスラの場合は自動運転レベル2(渋滞時の先行車追従システムなどの部分的自動運転)を標準装備した市販車から走行データを集積している。

テスラ車はコネクテッドカー(ネットに常時接続してオンライン上のさまざまなサービスとつながった車)であり、道路状況や路面状況、他の車の動きなどを検知した情報を収集している。そうやって蓄積された膨大な走行データをAIが学習して、自動運転のレベルをハイピッチで高めているのだ。イーロン・マスクCEOは「レベル5、つまり完全自動運転のための基本機能の実現は非常に近い」と語っている。

将来の完全自動運転化に対応するために、テスラ車には「オートパイロット」というハードウエアが搭載されていて、このコンピュータで走行のすべてが管理されている。特徴的なのは、デジタル家電やスマホのように新しいソフトウエアを随時アップデートして、最新の機能を入手できる仕組みになっていることだ。ネット経由でアップグレードしていくという発想は、内燃機関で走る車を一生懸命造ってきた既存の自動車メーカーからは出てこないだろう。車をスマホや電化製品と同列に扱うEV専業メーカーならではのアイデアだ。

天才イーロン・マスクの後継者は出現するのか

天才イーロン・マスクの後継者は出現するのか
テスラの時価総額がトヨタの2倍超えを果たしたのは、テスラの実力と将来性が評価されたから、だけではない。イーロン・マスクという実業家であり天才エンジニアの存在も大きく影響している。

天才が率いるEVメーカーだからプレミアムがつくわけで、今回のテスラの「トヨタの2倍超え」はご祝儀的な色合いが濃いと思う。時価総額を正当化できるかどうかは、これから何世代にもわたって同じような優れた経営者が後を継ぐかどうかにかかっている。

83年前に創業したトヨタは世代交代を繰り返しながら時代を乗り越え、世界に根を張り、年間1000万台以上の車を生産する世界一の自動車メーカーになった。いくら構造がシンプルなEVとはいえ、テスラが1000万台規模のメーカーになって世界のトップに躍り出るにはまだまだ時間がかかる。マスク氏がいつまでも率いるわけではないし、代替わりしてマスク氏の創業の精神や設計思想が守られるかどうかもわからない。マスク氏を上回るような才能、もしくは経営者が後を継がなければ、時価総額に見合った成長は望めないだろう。

30年後には内燃機関のエンジン車からEV時代に完全移行しているとも言われる。テスラの将来価値が見込まれる理由でもあるが、私はEVに完全移行するとは思っていない。米国やドイツ辺りでは1日1000kmぐらい平気で走る人がいるが、航続距離が限られていてチャージに時間がかかるEVは長距離移動には向かない。その点、電気とガソリンの両方を使えるHV車のほうが優れていると個人的には思う。人口密集地はEVとして電気で走って、郊外ではガソリンも併用する。HVなら走りながら充電できるから、航続距離を稼げる。

中国ではEVの購入に補助金が出るが、最近はHVにもインセンティブがつくようになった。EVの独壇場ではない未来だってありうるのだ。

※この記事は、『プレジデント』誌 2020年9月18日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。