大前研一メソッド 2020年10月20日

一時的に失業率30%もありうる?日本は大失業時代の入り口

一時的に失業率30%もありうる? 日本は大失業時代の入り口
大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

2020年9月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は日本が47.7、米国は53.5、中国は53.0、ユーロ圏は53.7と日本国内の景気回復が世界に遅れています。

PMIは、製造業の仕入れ担当者にアンケートしてその景況感を数値化した景気指標の1つです。購買担当者は自社業績のデータを早く入手できるため、景気動向をイチ早く確認できます。

PMIの数値が50を上回ると「改善」、50を下回ると「悪化」と判断されます。日本の景気は悪化が続き、この先、失業率は2ケタに乗せ、下手をすると一時的には30%ぐらいになる可能性もあり、「大失業時代の入り口にさしかかっている」とBBT大学院・大前研一学長は厳しい見方をします。

【資料】主要国・地域の製造業PMIの推移(リンク)
日本
米国

中国
ユーロ圏

日本国内の景気回復は世界に遅れる

日本国内の景気回復は世界に遅れる
欧米や中国はPMIの数値が50を超えて新型コロナ感染拡大前の水準まで回復しているのに対し、日本は感染者が非常に少ないのにもかかわらず、冷え込んでいる。コロナ拡大前を下回ったままである。

日本がなかなかPMI50を超えないのは、各企業とも設備投資を手控えているからである。日本は製造者も消費者も非常に萎縮している。

政府は消費を活性化させるため、いろいろな策を行っているが、国民全員に支給された10万円の特別定額給付金も、ほとんどが貯金に回ってしまう。10万円を配っても消費につながらない。複雑な手続きをしてポイントを還元してもらうのも面倒だ。

感染予防対策に取り組む観光業や飲食店を応援する「Go To Eat」キャンペーンにしても、サイトで予約しなければならないなど、間にいろいろな人を介在させている。これは業者をもうけさせるという選挙対策もあるのだろうが、そんな面倒な手続きでは消費は喚起しない。英国版「Go To Eat」の「Eat Out to Help Out(EOTHO)」では消費者側に面倒な手続きはなかった。クーポン券などは不要で、予約の際に「EOTHO」を利用したいと伝える必要もない。店が独自に発行する割引券やギフト券などとの併用もできた。

消費刺激策は、モノを購入した瞬間にバサッと戻るというような単純なことがいい。といっても、初めから「消費税をゼロにする」と言うと、商売する側の消費税申告の手続きが複雑になる。

一番簡単のは、例えば「10%割引にします」と言って、その場で1000円なら100円を返すこと。商売する側は、きちんとしたキャッシュレジスターの正式な記録を出して、その分を政府から還付してもらえばいい。

消費が起こっている瞬間に直接消費者に戻す。こういう直接的なことをしないといけない。いまのようなやり方では、まさに隔靴掻痒(かっかそうよう)、かゆいところに手が届かず、じれったい。

失業率は2ケタへ、一時的には30%もありうる

失業率は2ケタへ、一時的には30%もありうる
新型コロナ不況に関連してもう一つ、失業率がこれから上がる話をしておこう。総務省発表の2020年8月の全国の完全失業率は3.0%と、前月と比べて0.1ポイント悪化した。3%台は3年3カ月ぶりで、完全失業者の数も206万人と7か月連続で増加。1年前より49万人増加している。

【図】日本の完全失業率の推移

この数字で驚いてはいけない。就業者のうちパートや派遣社員、アルバイトなどの非正規労働者は2070万人で前年同月から120万人減った。この数字は結構大きい。雇用調整助成金の給付を受けてまだ我慢して雇用しているところも2020年12月末の期限が切れたら雇用を維持できなくなる。そのときにはこんな数字では収まらない。

私は失業率が2ケタに行くと思っている。テレワークなどに触発された企業はAIや業務効率化ツールを使ってホワイトカラーの生産性を上げることから、非正規のレイオフ(一時解雇)を合わせると、下手をすると一時的には30%ぐらいになる可能性もある。そこから新しい職種に雇用が戻ってくるようになるのは、10年単位の非常にゆっくりしたプロセスになるのではないか。

日本はコロナによる経済的打撃も大きいが、それに触発された大失業時代の入り口にさしかかっている、という見方をしておく必要がある。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2020年10月11日、大前ライブ2020年10月4日配信 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。