大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部
ホームセンター業界の合従連衡が進みつつあります。2020年11月9日付で、同業界6位のLIXILビバは同14位のアークライズの完全子会社となりました。
さらに同業界7位の島忠に対して、同業界2位のDCMホールディングスとニトリホールディングスの2社がTOB(株式公開買い付け)が2020年11月現在、行われています。
ホームセンター業界の合従連衡はこれからも続くのでしょうか。BBT大学院・大前研一学長が解説します。
【図1】国内ホームセンター売上高TOP15
【図2】ホームセンター業界相関図
家具・日用品大手のニトリホールディングスが10月29日、ホームセンター中堅、島忠に対し、TOBを実施すると発表した。島忠の完全子会社化を目指すという。
島忠をめぐっては、同業大手で「ホーマック」などを展開するDCMホールディングスが完全子会社化に向け、10月5日から11月16日までの間、1株4200円でTOBを実施している。ニトリの買い付け価格は1株5500円で、DCMを1300円上回ることになり、まさに異例の買収合戦に発展した。
ホームセンター業界は、DCMとカインズが売上高1位を争っていて、2018年はDCM、2019年はカインズがトップだった。2020年2月期の売上高はどちらも4000億円台。DCMと業界7位の島忠(売上高は約1500億円)を合わせれば、一気に業界首位に君臨できる。
一方、ニトリは国内家具、インテリア小売りではダントツの「1強」。国内外で600店余りを展開し、2020年8月までの半年間の中間決算は、新型コロナ禍のいわゆる「巣ごもり需要」で収納整理用品やキッチンダイニング製品の売り上げが好調で、過去最高益を記録した。2021年2月期業績予想も上方修正、売上高も7026億円に引き上げている。
実力からいったら、時価総額2兆4000億円のニトリはDCMと島忠の両方まとめて買うことができる。売り上げも一気に1兆円を超す。私がニトリの社長だったら、いきなり島忠を買収するのではなく、DCMが島忠を買うのを待ち、その後でDCMへTOBをかけたいところだ。
ニトリはネット通販も好調だ。しかし、実際に物を受け取ることができる拠点が、まだまだ足りない。特に島忠が首都圏を中心に店舗展開し、ホームセンターの中でも家具やインテリアに強いことは、ニトリにとっては魅力だろう。
ニトリの主力の家具、インテリアは、今後、少子高齢化などで買い替え需要なども減少する可能性もある。
DCMのライバルのカインズはベイシア・グループの一員である。ベイシア・グループには作業着中心のワークマンがある。アパレル小売全般が苦戦している中、その機能性や低価格が女性にも支持されて、売り上げを伸ばしている。
ニトリもこういったグループ展開する近未来の姿をベイシア・グループとオーバーラップさせているのではないか。ホームセンターのノウハウを取り入れることで、スウェーデン発祥の世界最大の家具量販店のIKEAとはかなり違う形になっていくはずだ。
ニトリと島忠とだと経済モデルは違うかもしれないが、島忠を手に入れることは、ニトリにとっては悪い話ではないと思う。
ホームセンターの市場規模は4兆円前後で15年以上横ばいである。店舗数は5000に迫る勢いで増えている。ニトリがホームセンターの市場に手を突っ込むというのは、企業戦略としては、打ち手も広がりかなり面白いのではないかと思っている。
※この記事は、『プレジデント』誌 2020年11月13日号 を基に編集したものです。
大前研一
プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。