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大前研一メソッド 2021/01/18

NTT法の改正や撤廃に向けてドコモが動き出した?(前編)

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

NTTドコモと三菱UFJ銀行は、金融事業で包括提携する方針を固めました。これに先立ち、NTTドコモは大幅な料金値下げに踏み切りました。提携と料金値下げの関係について2回シリーズでBBT大学院・大前研一学長が解説します。NTTドコモの「値下げしすぎ」の料金は、三菱UFJ銀行との金融事業での包括提携の布石なのではないだろうかと大前学長は推理します。前編では、「値下げしすぎ」の料金について解説します。

2021年3月スタートの新料金プラン「ahamo(アハモ)」は月額2980円。データ容量は20GB。国内通話は最初の5分は無料でかけ放題。そのうえ、追加料金なしで5Gにも対応。それでいて契約期間の縛りもなければ、解約金の設定もない。

かねて菅首相は「携帯電話料金は今より4割程度下げる余地がある」と公言してきた。アハモは菅首相の言葉を実証したわけで、メインブランドの料金体系を守ろうとしてきたKDDIやソフトバンク、後発の楽天は顧客引き留めのためにせいぜい同じような内容で対抗するしかない。

その場合でも、回線の質や地域カバー率で勝るNTTドコモに乗り換える顧客は出てくるので、流出の完全ストップは難しいと思われる。KDDI、ソフトバンク、楽天の3社が「不公平だ」と訴えても、NTTドコモは「政府に言われたことをやったまでだ」と言えば、3社はぐうの音も出ない。

NTTドコモはなぜこれほど太っ腹な料金プランを打ち出せたのだろうか。格安プランを可能にするNTTには、KDDIやソフトバンクや楽天が持っていない以下のような知られざる3つの強みがある。

(1)収益の柱は、料金に鈍感なユーザー「富裕層鈍感」セグメント

アハモは、オンライン契約専用のプランである。各種申し込みやサポートはすべてオンライン経由で、いわゆるドコモショップやコールセンターでの対応は原則行わない。その分、店舗コストや人件費がかからないからプラン料金を下げられる、という理屈もなくはない。

一方で受付窓口をオンラインに限定すれば、インターネットに疎かったり、スマホに不慣れな年配ユーザーはそう簡単にアハモにプラン変更や乗り換えをしないし、できない。したがって、割高な既存プランのまま使い続ける利用者が相当いると思われる。

もっと言えば、富裕層は自動的に口座から引き落とされる携帯電話の料金なんて気にもしていない。当然、NTTドコモの新プランにも関心はないし、プラン変更や乗り換えなんて面倒くさいだけだ。

実はドコモのみならずNTTの収益の柱になっているのは、そのような価格に鈍感なユーザー「富裕層鈍感」と私が呼んでいるセグメントなのだ。

(2)基幹通信網などの固定投資はほぼ完了済

格安プランを可能にするNTTドコモの強みはほかにもある。この先もまだまだ固定投資が必要なKDDIやソフトバンクに対して、NTTドコモは基幹通信網などの固定投資がほぼ済んでいる。

日本電信電話公社の分割民営化でNTTが発足したのは1985年。まず88年にNTTデータ、92年にNTT移動通信網(現NTTドコモ)が分社化された(当時私はマッキンゼーにいて、このプロセスをいろいろアドバイスした)。1999年には東西の地域会社であるNTT東日本と西日本、長距離・国際通信事業を担うNTTコミュニケーションズが誕生する。

電電公社の巨大なインフラ資産を独占的に受け継いだNTTは、民業圧迫を避けるために「NTT法」という足かせをはめられた。NTT法による縛りはさまざまあるが、代表的なものが「全国どこでも電話サービス」(シビル・ミニマム)の義務だ。

離島や僻地にポツンと一軒でも世帯があれば、その一軒に電話を繋ぐために電線や海底ケーブルなどを維持しなければならない。今は安価な無線設備でいいところも多いが、通信キャリアの中でこのような「シビル・ミニマム」の十字架を背負っているのはNTTだけだ。

NTTにとっては「シビル・ミニマム」は大変な重荷だが、おかげで固定投資が他社より大きく先行した。3月からスタートするアハモで、若者などの乗り換えが増加してNTTドコモがシェアを伸ばすのは間違いない。固定投資が終わっているのだから、ユーザー数が増えれば、固定費に対する限界利益(簡単に言えば売上高から変動費を引いたもの)の貢献は大きくなる。

ショップ対応をしないということだから変動費はほとんど発生せず、破格の料金プランでも利用者数(=売り上げ)の増加で、通信インフラの稼働率が上がり、経営にとってプラスなのだ。

(3)NTTの最大の財産は、優良不動産

電電公社時代からの資産という観点からしてもNTTには余力がある。アナリスト達が言っているように、NTTの最大の財産は、実は不動産だ。電話局は全国にあって、しかもほとんどが駅近の一等地。数年前、ソニーが本社ビルをリースバック(売却後も賃貸契約で住み続けること)して資金調達したが、NTTも売却資産に事欠かない。もしKDDIやソフトバンクが対抗プランを出してきて血みどろの値下げ競争に突入したとしても、資金はいくらでも工面できる。

以上(1)〜(3)からNTTには余力があるわけだが、なぜ価格競争の末ではなく、初手から「値下げしすぎ」の料金を繰り出すのか。実はNTT法の改正や撤廃に向けた政府への働きかけが始まっていて、アハモの発表が菅政権への“貢ぎ物”だとしても、まったく不思議ではない。次回の後編では、三菱UFJ銀行との金融事業での包括提携について解説する。

※この記事は、『プレジデント』誌 2021年1月29日、『大前ライブ』2021年1月10日放送 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。