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大前研一メソッド 2021/02/02

後手後手の決断しかできない菅政権は短命に終わるだろう


大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

2度目の緊急事態宣言の発令とGo Toトラベルの一斉停止は遅きに失した感が否めません。「菅政権からは、国民の健康や生命を守ろうという決意も気概も感じられない」と菅義偉首相の後手後手に回る決断をBBT大学院・大前研一学長は批判します。東京オリンピック・パラリンピックを辞退する手順もルールもなく、なし崩し的に降参するであろう先にあるのは、2021年内の首相交代でしょう。

自ら決断したというより、押し切られてやむなく緊急事態宣言を発出

年明け後の2021年1月7日、2度目の緊急事態宣言が発令された。安倍晋三前政権が20年4月7日に発令した緊急事態宣言が全面解除されたのが20年5月25日だから、約8カ月ぶりの発令である。

遅きに失した感は否めない。もともと菅首相は緊急事態宣言の発令に消極的で、「専門家も緊急事態宣言を出す状況ではないという認識で一致している」と否定し続けてきた。

再び緊急事態宣言発令となれば、ようやく持ち直してきた経済の落ち込みは避けられない。時短や休業要請に伴う補償金や協力金、給付金などで財政状況はさらに厳しくなる。「ワクチン供給の先行きに薄明かりが見えてきたことだし、経済活動が休眠する年末年始を粛々とやり過ごせれば感染拡大に歯止めがかかるのでは」という希望的観測が官邸にあったに違いない。

飲食の場が感染拡大のキーポイントということがわかってきて、当面は飲食店の営業時間短縮で乗り切る腹だったのだろう。

しかし年末年始も新規感染者は増え続けて、医療崩壊を懸念する声が高まるばかり。1月2日には小池百合子東京都知事の発案で、感染爆発が収まらない1都3県の知事が揃って緊急事態宣言の早期の再発令をコロナ担当の西村康稔経済再生担当大臣に求めた。

3時間に及ぶ直談判だったと言われるが、その2日後に菅首相は宣言発令の検討に入ることを表明した。

こうした流れを見ていると、自ら決断したというより、押し切られてやむなく緊急事態宣言を出した菅首相の心の内が透けてくる。

感染を拡大するために税金を使うGo Toトラベルは二階俊博氏のため

Go Toトラベルの一斉停止を巡る経緯もひどかった。

世論調査で国民の半数以上が「中止すべき」と答えていたにもかかわらず、「Go Toトラベルの利用者4000万人中、感染者は180人。感染を拡大させたエビデンス(証拠)はない」と菅首相は言い張ってきた。利用者全員にPCR検査を実施した結果でもないのに、4000万分の180という意味のない数字(ほとんど自己申告)をよく平気で持ち出してくるものだ。

Go Toトラベルを主導したのは、安倍前政権の菅官房長官であり、菅政権誕生のキングメーカーである二階(俊博)派の議員たちである。全国旅行業協会の会長を務める二階幹事長の顔を潰すわけにもいかなかったのだろう。

ところが政権支持率が音を立てて下がってきた2020年12月中旬、菅首相は突如として、2020年12月28日から2021年1月11日までGo Toトラベルを全国一斉に一時停止する考えを表明した。二階派の議員が激怒するほど根回しを怠った決断だったようで、言い換えればそれだけ場当たり的だったということだ。

二階俊博という政治家は、世論の動きに鋭敏だ。世論の潮が引いていると見れば、Go Toトラベルの中止もあっさりと認めるところがある。その二階氏への根回しがなかったとすれば、二階氏を説得する力がもはや菅首相にはないことが露呈したとも言える。

2021年1月12日に再開する予定だったGo Toトラベルは世論的には中止せざるをえないが、二階幹事長への説明をする勇気がない。そういう事情だから1都3県の要請に従った、という構図にしたように見える。

東京オリンピック・パラリンピックの開催はなし崩し的に辞退へ?

今回の緊急事態宣言が長期化して解除が長引けば、夏の東京オリンピック・パラリンピックの開催にも大きく影響する。すでに国民の7割はオリンピック開催に懐疑的なのに、オリンピック利権に乗っかっているマスコミは皆知らん顔をしている。しかし開催国の感染拡大が収まらなければ、当然、開催はできない。

仮に日本で感染拡大が抑え込めたとしても、諸外国で感染爆発が収まっていなければ、国民感情的にウエルカムとはならないだろう。

第3波が猛威を振るっている欧州や米国でワクチン接種が始まっているが、これから感染拡大のピークを迎える国もある。コロナ禍で選手選考もままならず、選手団の派遣ができない国も出てきそうだ。

菅首相も小池都知事も「東京大会を人類がコロナに打ち勝った証しにしたい」と言う。しかし、世界の感染者数はいまだ爆発的に増え続けているし、コロナに打ち勝った証しになるような行動も取っていない。日本に限らずあらゆる国で「人類がコロナに打ち勝った」と胸を張って言えるような状況は報告されてはいない。

国際オリンピック委員会(IOC)は緊急事態宣言の再発令を受けて「日本の当局とその対策に全幅の信頼を寄せている」とコメントしているが、東京都が発表している安全対策は成果が上がっておらず、「竹槍で本土防衛せよ」と言っているに等しい。これで本当に開催できると考えているのなら正気の沙汰ではない。

開催の可否を決めるのはIOCだが開催都市は東京だ。菅首相は日本のリーダーとして「我々は自信を持って国民の安全、ゲストの安全、アスリートの安全を担保できる状況にない。従ってこれは辞退せざるをえない」と東京都に迫るくらいの覚悟を示すべきだ。

少なくとも、「いついつまでにこの条件をクリアする」という条件を書き出して、その条件が整わない場合には自動的に開催を辞退するという同意を得る。この筋道を決めるのがリーダーの役割というものである。

菅政権は2021年内に短命で終わるだろう

実際問題、Go Toトラベルの中止と緊急事態宣言の遅れが政権の命取りになる可能性がある。そのうえ、オリンピックを辞退する手順とルールを考えておかないで、なし崩し的に降参するような事態になれば、菅政権はまず持たない。

2021年9月には自民党総裁選が予定され、衆議院が任期満了を迎える2021年10月までには必ず総選挙が実施される。このまま迷走が続いたら、自民党は今年の総選挙で敗北し、菅政権は短命に終わるだろう。

緊急事態宣言に一定の効果が確認されて、ワクチン供給が始まり、オリンピックが開催されたとしても、二階派にハシゴを外された菅首相の延命も難しいだろう。

ポスト菅の有力候補は、前回の総裁選で2位になった岸田文雄前政調会長か、「脱はんこ」などで国民に知名度がある河野太郎行政改革担当大臣あたりか。前回の総裁選で惨敗した石破茂元幹事長は厳しいだろう。

「自民党のドン」である二階幹事長との仲を考えると、オリンピックが開催された場合は功労者の小池都知事、あるいは桜を見る会問題を不起訴で乗り切った安倍晋三前首相の再々登板が大穴になるかもしれない。いずれにしても日本丸は未曽有の危機に幽霊船長が舵をとっている、という状況は当分続くだろう。

※この記事は、『プレジデント』誌 2021年2月12日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。