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大前研一メソッド 2021/02/22

ブレグジット後の英国:連合王国(UK)は崩壊、再没落へ?


大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

ブレグジット(英国のEU〈欧州連合〉離脱)が、2020年12月31日の23時をもって完了しました。ブレグジット後も、通貨ポンド、英国株式市場は共に堅調です。しかし、ブレグジットで英国がこれから払うことになるツケは大きいとBBT大学院・大前研一学長は予測します。連合王国は崩壊し、再没落は避けられないだろうと大前学長は言います。

EU加盟国であることのメリットを英国は大いに享受していた

貿易に関しては2021年1月以降も全品目で「関税ゼロ」が5年間は維持されることになった。ただし通関手続きは必要で、これまでのように物資がノンストップで国境を行き来することはできない。

通商協定に合意したといっても、英国議会や欧州議会で協定の内容が吟味されて法制化されるのはこれから。これがスムーズに運ぶ保証はないし、市民生活への影響次第でどんな事態になるか先行きは不透明だ。それでも約4年の離脱プロセスを経て、英国が半世紀近くに及ぶEU加盟国の歴史に幕を閉じた事実は重い。

離脱した英国は、EUのメリットを大いに享受してきた。かつて失業率10%を超える没落国家だった英国が立ち直った大きな理由の1つは、サッチャー政権の徹底した規制改革であり、もう1つは自由貿易圏としてのEUである。

EU域内はシェンゲン協定で人や物の移動の自由が認められている。特に英語圏は仕事をしやすいから、単純労働者から医師や看護師、弁護士、会計士といったプロフェッショナルな職業人まで、多くの人材が英国に流入してきた。

当然英国から大陸に出ていく人もいるが、人材に関しては輸入超過。ゆえに国民投票では「(難民などの流入で)雇用が奪われた」と離脱推進派は煽ったわけだが、実際には英国の失業率は史上最低レベルの4%台で、人手不足のほうが問題だった。

EU域内で産業の最適化が進んだメリットも大きい。英国は長らくインフレに悩まされてきたが、欧州の最適地から一番安くていいものが、関税も出入国検査もなしで入ってくるようになってインフレが解消した。

さらに言えば、英国はアイルランド共和国との間で北アイルランド問題を抱えている。血生臭い衝突やテロが続いた北アイルランド問題が何とか収まったのは、和平協定締結後、アイルランド島の北部にある英国領の北アイルランドとアイルランドの国境に検問を置かずに人や物の行き来を自由にしてきたから。イギリスとアイルランドがともにEU加盟国だったからこそ、国境を曖昧にできたのだ。

新たな通商協定に合意したことで、英国最大の輸出先であるEUへの輸出品に「10%関税」がかかる最悪の事態は当面回避された。しかし諸手を挙げて喜べる状況ではなく、前述のような自由貿易圏のメリットが消失していく可能性が高い。

たとえば英国のスーパーでは、ポルトガルやスペインからの生鮮野菜や果物が店頭に並ばない事態が続出している。関税ゼロは今までどおりでも通関手続きは必要になっているうえ、コロナ禍の影響も重なって、物流が滞っているのだ。これまでのように欧州の最適地から物資が届かなくなれば、インフレは避けられない。

人の移動の自由もなくなるから、労働力の確保も今までどおりにはいかない。医師や看護師などプロフェッショナル人材の不足が深刻化すれば、コロナで崩壊しかかっている医療体制がさらに逼迫する恐れもある。

欧州各地や世界中から人材が集まる英国は、欧州における研究開発の中心地であり、オックスフォード大学などの研究機関にEUからかなり予算が配分されてきた。その強みがなくなって、人材もまともに揃わないとなれば、英国伝統の研究開発力が失われていく可能性すらある。

「世界の金融センター」の地位を築いたロンドンのシティでも、かなりの機能が2021年1月1日から欧州大陸に移っている。オランダの首都・アムステルダムは、2021年1月に欧州における株式取引拠点としての地位をロンドンから奪った。英国の再没落は金融市場から始まっている。

北アイルランドから連合王国の崩壊が始まる?

北アイルランドについては離脱後もEUの関税ルールが適用されたが、本土のグレートブリテン島との間で通関業務が必要になった。物流が滞って北アイルランド市民の不満は日増しに高まり、「これならアイルランドと一緒になったほうがいい」という声が強まっている。

他方、スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相は、スコットランド独立の是非を問う2度目の住民投票を年内にも実現したいと積極的に動いている。ボリス・ジョンソン英首相はこれを阻止する考えだが、仮に住民投票が行われて独立派が勝利すれば、EU加盟を申請する予定だ。

スコットランドが独立に動けば、ウェールズも黙っていない。ということで、私がかねて予見していた連合王国の崩壊で「イングランド・アローン」、すなわちイングランドのみの英国となり、再没落するというシナリオが、いよいよ現実味を帯びてくることになるだろう。そのとき、ブレグジットを煽った政治家たちを恨んでも、もう手遅れだ

※この記事は、『プレジデント』誌 2021年3月5日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。