大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部
帝国ホテル東京にひと月36万円で住まう——。帝国ホテル東京に滞在中はプール、フィットネスセンター、サウナ(予約制)、駐車場1台、ロビーラウンジでのコーヒー、紅茶、ビジネスラウンジやミーティングルーム(1日2時間まで/予約制)がなんと無料の料金プランが注目を集めています。高級ホテルの新規事業について、BBT大学院・大前研一学長に聞ました。
【資料リンク】帝国ホテル「サービスアパートメント」
130年の歴史を誇る帝国ホテルが2021年2月1日、新規事業となる「サービスアパートメント」(正確な英語では「サービスド・アパートメント」)の2021年7月15日までの予約受付を開始したところ、即日完売になった。
この事業は、旗艦の帝国ホテル東京のタワー館にある客室の一部(99室)を専用のアパートに改修し、最低5泊から利用できるようにするものである。煩雑な賃貸借契約手続きがなく、帝国ホテルが提供するサービスや館内設備なども使えるのが特徴である。
専属のスタッフが付き、食事や洗濯なども定額で提供する。価格は朝食のパン、コーヒー、駐車場、プール、サウナなど込みで5泊15万円である。1カ月単位で長期宿泊することもでき、月額36万円である。2021年3月15日から利用できる。
【表】帝国ホテルが提供する料金プラン
ホテルの稼働率は長期低迷が続いている。例えば、稼働率が30%だったのが、これによって100%になると、価格を3分の1にしても確実に売り上げになるということである。
このサービスド・アパートメント、米国や欧州では結構存在して、東京でも六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、赤坂プリンスなどでも行われている。しかし、月額家賃が200万円台のところもあり、とんでもない金持ちや外資系企業の東京の経営トップしか利用できなかった。
これに対して、帝国ホテルはリーズナブルな価格にした。ということで、1日で売り切れとなったわけだ。
新型コロナの影響でテレワークを導入する企業が増えているが、家族やペットが仕事部屋に入ってきたりして、自宅では集中できないという人も多い。そういう人たちも「第2の仕事場」として利用することになると思う。
東京には、このサービスド・アパートメントのニーズがもともとあったと思う。リクルート創業者の江副浩正さんは、例のリクルート事件の裁判をしているときから、外国人向けの「短期滞在の家具付きサービスド・アパートメント」という不動産事業を一生懸命取り組んでいた。
ある日突然、江副さんは私のところに来て、「インドの状況について教えてほしい」と言ってきた。「何をするんですか」と尋ねたら、東京で始めたサービスド・アパートメントをインドでやりたいという。この事業をアジアにまで広げようとしていたのだ。
インドは住宅事情も悪いし、アパートなどのセキュリティーの問題もあり海外のビジネスマンを相手にすれば、この事業はうまくいくという自信があったようだ。私は何人か現地の知り合いを紹介した。しかし、2013年、江副さんは道半ばで亡くなった。その後、このサービスド・アパートメント事業は頓挫した。
江副さんがいまのリクルートを見たら、その発展ぶりに引っくり返っていたはずだ。もしご存命だったら、おそらくリクルートの時価総額から推定すればトンでもない金持ちになっていたと思う。そのくらい世の中のニーズを読んでいる人だった。
ホテルニューオータニもこのサービスド・アパートメントの事業に参入した。
高級ホテルが続々とサービスド・アパートメントの事業に新規に乗り出す現在の状況を見ていると、事業を見る目があった江副さんを私は思い出す。
※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2021年2月20日を基に編集したものです。
大前研一
プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。