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大前研一メソッド 2021/04/05

福島原発が抱える3大問題——原子力人材が枯渇する前に解決せよ


大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

東日本大震災、そして福島第一原発の事故から10年が経過しました。福島原発の廃炉作業は10年経っても不安定な状態が続いていて、先行きが見えません。それどころか先延ばしにされてきた廃炉やトリチウムなどの課題は、一向に解決策が見えず深刻さを増すばかりです。

福島原発が抱えている課題を大別すると3つあるとBBT大学院・大前研一学長は指摘します。1つ目は溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し。2つ目は増え続ける放射能汚染水(以下、汚染水)。3つ目は使用済み核燃料の捨て場です。早く手を打たなければ原子力人材が枯渇していき、半永久的に対処不能になってしまうと大前研一は警告します。

課題1:デブリの取り出し

構造的には原子炉内部は完全に破壊されているはずだが、正確な実態は今もわからない。メルトスルー(炉心の溶融貫通)した燃料デブリに近づけば近づくほど放射線量が高くなるので、遠隔ロボットやカメラを投入してもすぐに劣化して壊れてしまうのだ。

原発事故の1週間後に「メルトダウン(炉心溶融)どころかメルトスルーの可能性が高い」と私がYouTubeで指摘したように、デブリは炉心を突き抜けて直下の底に固まっている。米スリーマイルや旧ソ連のチェルノブイリ原発事故で言うところの「象の足」状態になっている可能性が高く、塊の中心部を冷やすのは非常に難しい。事故発生当初は再臨界(核反応が再び始まること)が恐れられていたが、私は再臨界が起きたほうが望ましいと発表していた。核反応が臨界に達して再爆発すれば、象の足もバラバラになって冷やしやすくなるからだ。

スリーマイル島規模の原発事故なら、十分に時間を掛ければ燃料デブリを取り出して廃炉作業を進められるかもしれない。しかし、ほとんど全部の燃料がメルトスルーしたチェルノブイリ原発事故レベルとなるとお手上げで、象の足と化したデブリは切り分けないと絶対に取り出せない。だからチェルノブイリは解体を断念したわけだ。福島第一においても、圧力容器の底に固まったデブリを取り出す方法は今のところ見当もつかない。

課題2:増え続ける汚染水

デブリ冷却のための注水に加えて、地下水や雨水が原子炉建屋に流れ込むことなどで発生する汚染水は、今も毎日約140トンずつ増えている。これを多核種除去設備(ALPS。62種類の放射性物質を取り除けるが、トリチウムは除去できない)などで浄化処理した「汚染水」を敷地内に増設してきたタンク約1000基に貯蔵してきたが、もはや置く場所がほとんどない。東京電力によれば2022年夏以降に保管容量は限界を迎えるという。

汚染水に含まれている放射性物質トリチウム(三重水素)は宇宙線などによって自然界でも生成され、大気中の水蒸気や雨水、海水、水道水などにも含まれている。「β線」という放射線を出しているが非常に微弱なために、外部被曝による人体への影響はほとんどないとされる。健康被害が大きいのは体内に取り込んだ場合の内部被曝だが、これも濃度をコントロールすればリスクはかなり低減できると言われている。

実際、海外の原発でも、発生したトリチウム水をそれぞれの基準値に照らして濃度を薄めて大気中や海に放出している。フランスは日本とは桁違いな量のトリチウムを主として川に流しているし、福島の汚染水処理に批判的な韓国も自国の原発から出たトリチウムを日本海や大気中に放出しているのだ。

汚染水を海水で希釈してトリチウムの濃度を国の排出基準以下にしたうえで海洋放出するという方向で政府は検討しているが、風評被害を懸念する漁業団体などとの調整が難航して、処分方針の最終決定は先送りされてきた。原発事故から10年経った2021年3月9日に閣議決定した2021年度以降の復興の基本方針改定においても、汚染水の処分方法については「適切なタイミングで結論を出す」という表現にとどまっている。

しかしタイムリミットは迫っている。コストの面でも効果の面でも合理的な選択肢は他国も行っている海洋放出ということになるだろう。近海ではなく、長い放水管のようなものを設置して太平洋の沖合に放出すれば、海流の影響ですぐに拡散する。

課題3:使用済み核燃料の捨て場

2021年2月末、福島第一原発3号機の使用済み燃料プールに残っていた核燃料566体の取り出しが完了した。メルトダウンを起こした1〜3号機で搬出を完了したのは初めてのことだ。1〜6号機の核燃料取り出しは、2031年に完了する予定である。しかし取り出しを終えたのは3号機と4号機だけで、1、2号機には依然として計1007体の使用済み核燃料が残っている。

使用済み核燃料を抱えているのは、福島原発だけではない。使用済み核燃料は、原子炉から取り出された後も熱を帯びているために数年単位の冷却が必要で、原子炉建屋の上部に設置された燃料プ—ルに冷却、貯蔵されている。日本中の原発には、これが大量に貯め込まれているのだ。

なぜこれほどの使用済み核燃料を保有しているかと言えば、政府・自民党がいざとなったら90日以内に核兵器を製造できるニュークリアレディ(核準備)国を目指していたからである。使用済み核燃料からプルトニウムなどを抽出して再利用するプルサーマル技術やウランの利用効率を飛躍的に高める高速増殖炉などの開発政策は、「資源の有効利用」を謳うたいながら核兵器の燃料であるプルトニウムを実は国内に蓄えるための口実でもあったのだ。日本は(長崎型の)核爆弾を1万発ぐらい造れるプルトニウムを保有していると言われている。

しかし1兆円超の巨費を投じてきた高速増殖炉もんじゅが廃炉になり、世界中で濃縮ウランが余っている状況下でプルサーマル計画は頓挫した。使用済み核燃料の再処理についても方向性が定まらないまま、各原発内の燃料プール貯蔵容量は限界に近づきつつある。

使用済み核燃料を再処理する際に出る高レベルの放射能廃棄物「核のゴミ」——。この最終処分場について、北海道の寿都町と神恵内村が国の選定プロセスである文献調査(地質図や学術論文に基づく調査)に応募した。文献調査に最大20億円、第2段階の概要調査には最大70億円の交付金が国から出る。過疎や財政難に悩む自治体にとっては魅力的だが、最終処分場の誘致まで進むかどうかはわからない。

核のゴミをガラス固化体にして地下300メートル以深に埋める「地層処分」にするのが国の方針だが、最終処分場はいまだに決まっていない。ガラス固化の技術も未完成のままである。フランスの技術を輸入してやっているが、ゼロから考え直さないと技術的に難しいのではないかと思う。

核のゴミは国民の電力消費の結果として出たものだから国内で処分するしかない。しかし、この問題はスウェーデンとフィンランド以外、最終的な保管場所が決まった国がないほどの難問だ。バーゼル条約で産業廃棄物は「それが発生した国で処分すべき」と定められているため、国土の広大な国に処分を頼むことも難しい。

率直に言って、最終処分場は福島第一原発がある双葉町と大熊町にするしかないと、私は以前から考えている。原発用地は返すときには廃炉にして施設を解体し、更地に戻して返すことになっている。しかし爆発事故を起こした原子炉の敷地内などは、ほぼ永久に居住不可能と思われる。汚染状況からして更地に戻して返せるのは100年後のことだろうし、返してもらっても地元としても持て余すだけだ。

であれば、住民には手厚い補償をし、周辺も含めて国有地として国が買い上げるべきではないか。そこに最終処分場を造るのであれば比較的、合意も得やすいと思う。

逆の言い方をすれば、一進一退の苦しい廃炉作業を続けているのは原状回復して返す契約があるからで、国が買い上げてしまえばチェルノブイリのように石棺にして永遠のセキュリティエリアにしまうという考え方もある。

震災、原発事故から10年経ってハッキリしたのは、日本政府がいかに無能で問題解決力がないかということである。原発問題は、(米国と同様に)事故以降に学生の「原子力離れ」が進んでいる現状を鑑みるに、早く手を打たなければ原子力人材が枯渇していき、半永久的に対処不能になってしまうことも危惧される。もう先送りは止めて、ここで国が意思決定しなければ、ただでさえ長期低落していく日本の歪みは修復不能なものになりかねない。

※この記事は、『プレジデント』誌 2021年4月16日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。