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大前研一メソッド 2021/04/12

日本の接待文化は米欧で通用しない

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

政治家や公務員と、彼らを接待する民間企業を野党が追及し、生々しい答弁が国会中継されています。「政官民が癒着した関係にあるのではないか」と国民は疑惑の目を向けています。

「民間企業同士の取引しかしていないから自分には関係のない話」という他人事にとらえる風潮が日本にはびこっています。しかしながら、「政官民の接触だけが悪いのではない。不透明な接触は日本全体の悪しき体質」だとBBT大学院・大前研一学長は、私たち普通のビジネスパーソンがドキリとさせられる指摘をします。日本の接待文化が米欧では通用しないというエピソードを大前研一の経験から二つほど紹介します。

官民だけでなく、民間企業同士の不透明な接触も米欧では禁止

日本経済新聞(2021年3月17日付)に「接待規制、国際標準に遅れ 米欧は透明化徹底」と題する記事が掲載された。

【資料】接待規制、国際標準に遅れ 米欧は透明化徹底

総務省幹部の接待問題で、官僚と民間企業の不透明な接触を防ぐルールの形骸化が浮き彫りになり、官民の不透明な接待などの甘い現状を放置すれば、グローバルな展開をめざす日本企業にとっても負の影響をもたらしかねない——という内容である。

欧米では政府への働きかけは、主に議会に登録したロビイストが担い、接触記録を詳細に報告するなど透明性の確保に重点が置かれているとし、日本でも国際標準のルールづくりが急務としている。これは官民の接触だけの話ではない。日本全体の体質といっていい。

30年も前のことである。日本を代表する大手電機メーカーの労働組合の幹部と英国の同業の労組委員長が大阪で会談したことがあった。私はたまたま両方の人物を知っていたので、大阪の料亭における「意見交換の場」にも同席した。経営者同士なら、芸者さんを呼ぶところかもしれないが、労働組合はさすがにそこまではいかない。

しかし、用意された料理を見て、英国側の労組委員長は顔色を変えた。「ケン(「大前研一」のこと)、いくらぐらいの食事だと思う?」と尋ねるので、「まあ、2万5000円ぐらいかな」と答えたら、「それはダメだ。われわれは15ポンド以上の接待を受けるわけにはいかない」と言うわけ。1ポンドの為替レートは現在150円前後。30年前当時で250〜300円だった。

英国側の労組委員長は「それ以上の金額になると、われわれが支払わなくてはならない。しかし、そんな出張旅費はもらっていないので、ここから私たちは退席します」と言って、本当にその場から出ていってしまった。

英国からはるかかなたの日本に来ても、おいしそうな食べ物が出てきた瞬間、顔を真っ青にして席を立ってしまう。私も「そこまで厳しいのか」とびっくりした。

そのくらい接待規制のルールがはっきりしていて、それに抵触することはしない。このことが欧米の企業人の体に染みついているわけだ。

IBMはルールブックで規制を明文化

もう一つ、こんなこともあった。ある半導体関係の会社から売り込みを頼まれ、私は一緒に世界中を回った。お土産を持っていくと、「ありがとう」と喜ぶ会社もイタリアなどにはあったが、米国ニューヨーク州にあるIBM本社は違っていた。

お土産を渡そうとすると、対応した副社長が「ちょっと待ってくれ。われわれは納入業者になる可能性がある会社から物をもらうことが禁じられている」と会社のルールブックを見せた。確かに、そう書いてあった。

副社長は「このお土産は私もほしいし、息子もほしがるだろう。気持ちだけはありがたくいただきます」と続けた。

そんなわけで、そのルールブック(グリーンブックと呼ばれていた)も後で送ってくれた。そのくらい厳しい。

これには後日談がある。上場予備軍であったリクルートコスモスの株を現金を払わずに融資付きで購入するという贈収賄事件、いわゆる「リクルート事件」が1988年に発覚し、多くの政治家や企業人が犯罪に巻き込まれた。当時、日本IBMの幹部はそのスキームを米国のIBM本社に問い合わせたところ、「グリーンブック違反」として認められなかった。おかげで難を逃れた。

不透明な受発注を防止する以外、もう一つ防止しなければいけないのが民間企業同士の談合である。競争相手と会議をするときには社内弁護士に届け、議論の内容を文書で確認することが必要である。価格などについて議論したり阿吽(あうん)の呼吸で合意したりすることは独禁法違反となる。一流企業ではこの辺の社内規則も厳しく定められている。

日本というのは、政官民とも「バレなければいいんだろう」と考える。接待の場所は通称「迎賓館」と呼ばれるようなところかどうか、事前に調べることもない。「食事はいくらか」と聞いても高価な飲み物代が入っていない場合が多い。「会費制」と称して見かけだけ整えるような接待は「すべてアウト!」などルールの厳格化は本当に必要だと思う。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』誌 2021年3月27日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。