大前研一メソッド 2021年5月17日

中国の少子化は今後も止まらない。その構造問題とは?

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

2020年中国で生まれた新生児は1200万人。これは1465万人を記録した1年前の2019年に比べ18%も減少したもので、1961年(1187万人)以来、60年ぶりの最低値です。

2020年における中国の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数出生率)は1.3人にまで下がり、この数字は日本の同出生率である1.369人の水準です。

少子化の原因について、中国の特殊な事情をBBT大学院・大前研一学長は指摘します。中国の少子化は今後さらにひどくなる可能性が高そうです。

結婚適齢期の男性人口が、同女性よりも2割ほど多い

中国民政省の統計データによると、2020年の全国の婚姻件数は前年比12%減の813万件で、過去最低記録を更新した。2013年の1346万件から減少を続け、2019年は947万件と初めて1000万件を割った。中国の婚姻減少に歯止めがかからない。

日本では結婚当初は賃貸に住み、その後、人生計画が定まってからマイホームを購入することが一般的。中国では結婚前にマンションや一軒家を男性側が購入するケースが多い。しかし、都市部を中心に住宅価格が高騰して経済的負担が増したことに加え、新型コロナが追い打ちをかけた。

日本でも新型コロナの影響で結婚は減っている。その一方で、結婚したいという人は増えている。コロナ禍によって家で寂しく過ごしていると、パートナーが欲しくなるからだ。

中国の場合、結婚が少なくなった理由の一つが、男性と比べて結婚適齢期の女性の比率が少ないこと。2019年の統計でも女性100人に対する男性の割合は、25〜29歳が106.6人、20〜24歳が114.6人、15〜19歳が118.3人と、年齢が下がるにつれてどんどん高くなっている。

女性を100とした場合の男性の出生割合は、21世紀に入って以降、120を超えた年が2004年、2007年、2008年の3回もある。つまり、男児の方が2割ほど多く生まれている。人口の多い中国では、男女比が1〜2%ズレただけでも、非常に大きな数字になる。今後もさらにあぶれてしまう男が増えることになる。

「一人っ子政策」の後遺症で、生まれた時から男性比率が高い

女性の出生率が少なくなったのは、いわゆる「一人っ子政策」によるものだ。毛沢東時代、女性は国家建設のため労働に参加して、結婚や出産を先延ばしするよう促された。その後も、人口急増を避けるため、1979年から2015年まで実施された「1組の夫婦につき子供は1人まで」とする計画生育政策が続いた。

その影響で、「1人だけ産むなら家を継ぐ男の子」「働き手として男がほしい」と考える夫婦が、胎児が女の子と分かると中絶したケースもあると聞く。その結果、男性の比率が高まり、2020年には結婚適齢期とされる20歳から45歳までの男性数が女性数よりも3000万人も多くなってしまった。

人数が少ないことで立場が強くなった女性は、住宅価格が高騰しているのにもかかわらず、男に対して「アンタ、マンションの1つぐらい持っているのだろうね」と結婚の条件のハードルを上げたままだ。さらに、「親がくっついてくるのは嫌よ」と言いたい放題である。

都市部では経済的に自立して、結婚を選択しなくなる女性も増えている。だが、農村部では国際結婚ラッシュが始まっている。同世代の中国人女性と結婚できない男性は、フィリピンなどからやってきた若い女の子と集団お見合いをするなど、結婚相手を海外に求めるようになった。

こうでもしないと、この男女比10%のギャップというのは埋まらない。この適齢期男女のアンバランスは、今後、少子高齢化も含め、中国にとって非常に大きな問題になってくるだろう。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2021年5月8日を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。