マネジメントとビジネストレンドの知見を得るMBAメディア

タグから検索する

大前研一メソッド 2021/05/24

21世紀の日本の子供たちに必要な教育とは?


教育こそが日本の国力を維持・発展させるための最大の“軍備”です。ところが、現在の日本における教育には問題が多く、この問題を深刻にとらえなければ人口が減少する日本に将来はありません。21世紀の日本の子供たちに必要な教育とは何か。BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

デジタル世界という見えない大陸では、先行者利益が莫大


だが、工業化時代が終わってデジタル時代である今、これまでの教育は通用しなくなっている。デジタル社会での競争のルールというのは、アメリカ開拓時代のように、デジタル世界という見えない大陸を開拓していく中で、いかに自分のテリトリー(領域)を展開するかということである。しかも1度、GAFAのようにプラットフォーマーとしてテリトリーを固めてしまえば、一人勝ちできてしまうという先行者利益が莫大なのも特徴だ。

従って、そのデジタル時代に、他人の真似をしたりカイゼンしたりしても先行者にはまず勝てない。デジタル大陸での競争を生き抜くのに必要なのは、進むべき方向性を定め、0から1を創る能力である。これに成功している代表的人物の1人が、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスである。

見えないものを見る力、すなわち「0から1を創る構想力」を鍛える

ベゾスは、見えないものを見る力、すなわち0から1を創る「構想力」に優れた人物である。彼は1994年にITの可能性を感じて金融機関を辞め、シアトルでアマゾンを起業した。

アマゾンは、最初はオンライン書店から始まった。だから、当初は「アマゾンは書店だ」という目で周りから見られていた。しかし、ベゾスに見えていたものは違った。彼は「アマゾンは書店ではない。ウォルマートを抜いて世界一の小売店になる」と宣言していて、アマゾンの未来が見えていたのだ。

ただ、ベゾスにしてもすべてが順調だったわけではない。アマゾンが起業した頃のインターネット技術では、本のようにどこで買っても同じものが手に入る「左脳型商品」は売れても、実際に目で見たり手で触ったりできない「右脳型商品」は売れず、アマゾンもアパレルや家具では失敗を重ねていた。

それでもベゾスはこの難問を見事に解決してみせた。それには2つの要因がある。ひとつは、4Gなど高速な通信が普及し始めて大容量の通信が可能になり、動画や画像を使って商品のニュアンスまで伝えられるようになったこと。もうひとつが、ラスベガスの靴通販小売店ザッポスとの出会いだ。

同社の創業者で台湾にルーツがあるトニー・シェイは、典型的な「右脳型商品」である靴をインターネットで売るために、届いた靴が足に合わなければ無料で返品できるシステムを築いていた。これだと顧客は3足くらい注文して試し履きをし、一番フィットしたものだけを購入して残りは送り返せる。しかも、一回購入すればザッポスの扱う靴と自分の足との相性がわかり、このデータベースを賢く使えば2回目以降は返品率がグッと下がる。後追いの会社は常に返品リスクに悩まされるので、先行するザッポスが相対的に有利となる。

しかもこのザッポスは顧客想いの企業で、就職したい企業ランキングでトップになったことがあるほどの人気企業だ。ザッポスには有名なエピソードがある。ある人がザッポスで靴を3足注文したが3足とも返品をした。ザッポスの社員が返品理由を電話で尋ねると、返品者からは「実はお母さんのために靴を注文したのですが、お母さんが亡くなってしまって返品しました」と返答があった。返品自由と言っているからザッポスは何も文句は言えないが、ザッポスはそういう発想ではなく、母を亡くしたという返品者に花束を送ったという。こういう感動的な企業が米国にあったのだ。

この成功企業を知ったベゾスは、ザッポスを2009年に約12億ドルで買収したのだ。この返品自由のシステムを活用することでアマゾンは右脳型商品も売れるようになったし、知名度も上げることになったのである。

ベゾスが0からアマゾンを起業した「構想力」——。21世紀はそのような能力を鍛えることを、教育の柱にしなければならない。

21世紀の学校に、「先生」「teacher」は存在し得ない

日本の教育制度は抜本的に改革しなければならない。まず「先生」(teacher)という言葉を廃止すべきである。先に生まれた人が答えを知っているというのが前提となっているから先生なのだが、何度も言うように21世紀は答えがない時代なので先に生まれていても意味はない。むしろ、20世紀の考えが染み付いていればいるほど、答えを教えようとするから、21世紀の教育現場にはふさわしくないのだ。

実際、教育先進国と呼ばれている北欧諸国のデンマークでは、教室で「teacher」という言葉を使うことを禁止している。答えがないのだからteachできないという至極もっともな理屈である。代わりに教室には誰がいるかといえば、ファシリテーター(促進者)。生徒が26人いれば26通りの答えがあるのが当たり前で、そこからディスカッションしながら合意形成を図っていくというのが、21世紀型の教育スタイル。答えは見つけるもの、考え出すものなのだ。そのクラス討論を円滑に進むような役割を担うのがファシリテーターだ。

このような対話型の授業を始めると、自分の考えをまとめる論理的思考力に加えて、他人から共感を得て周りの人を巻き込んでいくリーダーシップ能力も養われる。

私は「私塾」が突破口になると考えている。21年4月にマスターズを制覇したゴルファーの松山英樹をはじめ、スポーツや文化の分野では世界で活躍する日本人が多い。これはなぜかといえば、学習指導要領の外の世界、すなわち「私塾」で学んでいるからだ。21世紀は一人ひとり異なった育て方をしないと尖った人間が出てこない。

歴史的にいっても、幕末・明治に活躍した高杉晋作、伊藤博文、山縣有朋たちが学んだ吉田松陰の松下村塾だって、福澤諭吉や大村益次郎が学んだ緒方洪庵の適塾も私塾だ。松下村塾の現代版をつくるとしたら、教育現場で活躍するのは社会人だ。どんな新しいビジネスを始められそうかをディスカッションしたらいい。このような「私塾」が増えていけば、日本は大きく変わっていく。

※この記事は、『プレジデント』誌 2021年6月4日号、大前研一アワー#461を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。