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大前研一メソッド 2021/05/31

ソフトバンクグループの含み益は、実現益になるのか?


ソフトバンクグループ(SBG)は、2013年3月期以来、投資によるキャッシュ流出が営業によるキャッシュ流入を大きく上回る状態が続いています。キャッシュフローの観点から見ると、10年近くもの期間、投資が営業キャッシュフローの獲得に結び付いていません。SBGは先行投資時期なだけであり、結果を出す日がやがては来るのでしょうか。BBT大学院・大前研一学長に聞きました。


【表】SBGのキャッシュフローの推移

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

サウジアラビア政府系ファンドへの確定利回り保証でキャッシュ流出か?

SBGは2021年3月期連結決算で売上高は前年より7.4%増の5兆6281億円、純利益が4兆9879億円となった。

この純利益の数字は、トヨタ自動車が2018年3月期に記録した2兆4939億円を抜き、国内企業で過去最高金額である。SBGは国際会計基準、トヨタは米国会計基準を採用している。

純利益を押し上げたのはファンド事業だ。コロナ禍によって世界で金融緩和が進み、各国の株式市場にカネが流れ込み、SBGの投資先も相次いで株価が上昇した。

特に韓国の電子商取引大手「クーパン」の新規上場によって、含み益は2兆5000億円まで膨れ上がった。

SBGのファンド事業は、中国の電子商取引超大手「アリババ」の保有株と、2017年にサウジアラビアの政府系公共投資ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド」(PIF)とともに発足した投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(SVF)が主軸である。

SVFは、米国のテクノロジー企業「ウーバー・テクノロジーズ」やオンデマンドフードデリバリーサービス「ドアダッシュ」、シンガポールが拠点の配車アプリの「グラブ」などの株式で資産を運用している。



【図1】SBGの保有株の価値

今後は、SVFや2019年に設立したSVF2の投資先を増やし、アリババへの含み益依存度を減らそうと考えている。さらに、米国の大物投資家のウォーレン・バフェットと同じように、あの「アマゾン」などの有望IT株も買い始めている。

ただ、SBGは利益や損失額のスケールが大きくて、前年の2020年3月期は過去最大の9515億円の赤字だった。これはSVFが運用した起業家向けに事務所スペースを提供する「ウィーワーク」の運営会社の企業価値下落などによるものである。

今後も赤字や黒字が乱高下して、アコーディオンのように含み益が縮んだり伸びたりする可能性がある。アリババの潜在価値はそう簡単には揺るがないとは思うが、中国政府との関係で事業がかなり制約を受け始めている。絶好調のクーパンやドアダッシュなども今後乱気流に巻き込まれる心配もあるだろう。

また、SVF2には、外部投資家から思うように資金が集まらず、自分たちで手元の資金を注いでいるが、実はサウジアラビアのPIFに対して8%の確定利回りと元本保証をしている事情もある。出ていくキャッシュは10年で数兆円規模と見られる。

本業である携帯電話などの通信サービスは、あまり利益を出していない

もう一つ、ファンド事業が絶好調という一方で、本業である携帯電話などの通信サービスは、あまり利益を出していない。



【図2】SBGの営業損益の推移

SBG傘下、ソフトバンクの2021年3月期決算は、売上高が前年比7.1%増の5兆2055億円、純利益が3.8%増の4912億円だった。

コロナ禍でテレワークが進み、クラウドサービスなど法人向けが好調で、ともに過去最高になっているとはいえ、携帯料金値下げの影響もあって、思ったほど伸びていない。

ということで、史上最高の純利益に「ご同慶の至りです」と拍手を送りたいところだが、投資会社となったSBGがいつまで孫正義会長兼社長の才覚に依存できるのかという問題のほかに、投資先の時価総額の乱高下に見舞われるなど構造的な面で心配な部分もある。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』2021年5月22日号、大前研一ライブ 2021年5月16日放送 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。