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大前研一メソッド 2021/06/07

「台湾有事」に日本は中国と敵対すべきではない


「中国が台頭をしてきて米国を脅かそうとしているから気に食わない」——。そもそも筋が通らずおかしな話です。今の中国をつくったのは米国自身だからです。米国は大量の中国人留学生を自国に留学させ成長と発展のノウハウを教えて送り返し、中国の発展に手を差し伸べ続けました。

同時に米Apple社などの米企業の生産工場としても利用しました。その結果、中国は成長する経済力を背景に軍事力も高め、気がつけば米国の覇権を脅かすほどになりました。「米国に追従して日本が中国と敵対するのは反対」という立場をBBT大学院・大前研一学長はとります。

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

米国追随で中国と敵対するな

2021年4月16日(日本時間17日)に行われた菅義偉首相とジョー・バイデン米大統領による日米首脳会談を受け、両国が発表した共同声明に、台湾問題が盛り込まれた。これは1972年の日中国交正常化以来初めてのことである。

フィリップ・デービッドソン米インド太平洋軍司令官(当時)が2021年3月に米上院軍事委員会の公聴会で、「中国が6年以内に台湾に武力侵攻する可能性がある」と発言するなど、ここにきて米国は中国に対する警戒を強めている。共同声明で台湾に言及したのは、中国をけん制したい米国の意向であり、日本はそれに従ったのだろう。

日本はこれまでも、事あるごとに米国の尻馬に乗ってきた。だから今回も米国と歩調を合わせ、対中国強硬姿勢をとることをよしとしているのかもしれない。しかし、同盟国だからといって無条件で米国に追随し中国と敵対してはならない。米国は歴史的に見て、態度を急変する癖があるのだ。日本はこのことをよくわかっておかなければならない。

台湾が有事になれば、日本も戦場に

今後6年以内にも起こりうると言われる米中間で台湾有事が勃発したら、日本も無傷ではいられない。安倍前政権が集団的自衛権を認める安保法を策定したから、米国が有事の際、日本も参戦できるようになった。「日本は戦争に関わりたくないから基地を使わないでくれ」とは言えないのである。まず、沖縄の嘉手納や普天間は間違いなく狙われる。米国の第7艦隊が配備されている横須賀、それから横田も中国の攻撃対象となるだろう。佐世保や岩国もやられるかもしれない。台湾問題で「米国と共同歩調をとる」と言ったら、そこまで覚悟しなければならないのだ。

米中にも相当な被害が及ぶと思われる。米中は政治的には対立しているが、経済的には現在供給不足が深刻な半導体や米Apple社製品が代表されるように、サプライチェーンがガッチリ構築されて結びついている。従って、台湾有事となれば、経済活動が世界規模で停滞するだろう。

台湾自体は物理的に破壊される可能性が大きい。軍事大国化した中国相手では、いざ事が起これば、カナダやオーストラリアあたりに逃げ出す台湾人は続出するだろう。つまり、台湾有事は誰にとってもいいことはひとつもないのだ。

英連邦のような緩やかな連合体の「中華連邦」をつくるしかない

中国と台湾に関しての私の持論は、ニクソン・キッシンジャー以前に戻り、英連邦のような緩やかな連合体の「中華連邦(コモンウェルス・オブ・チャイナ)」をつくるしかないということだ。実際、私が台湾の経済顧問を務めていたときに、当時の李登輝総統にこれを提案したことがある。彼はたいへん乗り気だったが、北京側が連邦制を認めたがらなかったため残念ながらそのときは実現しなかった。だが、香港や新疆ウイグル自治区の統治で世界中から非難を受けている今なら、台湾を無傷で統治できるようになる連邦制を中国が受け入れる可能性はゼロではないだろう。

ただ、キッシンジャーを超えるような外交力はバイデン政権にはないだろう。日本が米国に「中華連邦」のような構想を提言する手もあるが、「ジョー」「ヨシ」と呼び合って首脳同士の親密さをアピールする程度の外交力では期待するだけ無駄であろう。

本稿で述べたとおり、中東だけでなくまさに中国に対しても態度を急変させてきた米国に従属して、今(日本にとっては2000年も付き合いがある)中国と敵対することは絶対にしてはならない。中国とは経済的結びつきを強化して、日本は衰退からの脱却を図る。米中のはざまに置かれた日本外交は、このことを確実に肝に銘じるべきである。

※この記事は、『プレジデント』誌 2021年6月4日号、大前研一アワー#461を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。