大前研一メソッド 2021年6月15日

アマゾン、動画配信でネットフリックスを本格追撃へ


米アマゾン・ドット・コムは2021年5月26日、米映画制作大手のMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)を買収すると発表しました。買収総額は約84.5億ドル(約9200億円)で、Prime VideoなどのサービスにMGMの映画作品を追加するとともに、主にテレビ番組制作を担ってきたAmazon Studiosの役割を強化します。アマゾンが、動画配信の最大手である「ネットフリックスを本格的に追撃する動き」とBBT大学院・大前研一学長は分析します。

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

アマゾンにとって、過去2番目に大きなM&A

アマゾンにとっては、2017年に137億ドル(1兆4000億円)で買収した米国の高級自然食品スーパーのホールフーズ・マーケットに次ぐ、過去2番目に大きなM&A(企業の合併・買収)となる。

MGMは1924年設立のハリウッドの老舗で、人気映画「007」シリーズや「ロッキー」シリーズなどを手掛けていた。

アマゾンは有料サービス「アマゾンプライム」の会員向けに、動画配信サービス「Prime Video」を提供している。MGMを傘下に収めることで、サブスクリプション(定額見放題)の動画コンテンツを拡充させるわけである。しかし、それだけではない。

ネット通販が本業のアマゾンが、動画配信のために1兆円近い買収資金を投入するのは、動画配信の最大手であるネットフリックスを追撃するためである。世界のストリーミング・サービスの契約者数は、コロナの影響もあって断トツのネットフリックスをアマゾンやディズニー、それにスウェーデンのスポティファイが追いかけている状態である。



【図1】世界のストリーミングサービス契約件数

優れたコンテンツを数多くそろえるのが強みになり、ネットフリックスがコンテンツを最も充実させている。そのうえ、2013年の「ハウス・オブ・カード 野望の階段」を皮切りに本格的な自主制作にも乗り出している。このオリジナル作品は多額な予算を割り当てることもあって、ヒット作が続出している。既存コンテンツに頼っていた他社との差異化に成功し、契約者数を増やした。

劇場封切を経ずに月額ストリーミングに配信する事業モデルが台頭

今後、アマゾンも独自コンテンツの制作にも力を入れるはずである。その意味でMGMの映画制作のノウハウは必要になってくる。

この買収にどのくらいのインパクトがあるのか、まだクエスチョンマークの段階である。ただ、アマゾンにとっては1兆円の買収資金を出すのはどうということもない話である。「買わないよりは買った方がいい」というところだろう。

米国のハリウッド映画業界では大きな構造変化が起きつつあるところである。伝統的には5大スタジオが存在している。5大スタジオとはナショナルアミューズメント、コムキャスト、ソニー、ウォルト・ディズニー、AT&Tである。5大スタジオが手掛ける典型的な事業は、コンテンツを配信する時系列の順番に劇場映画→有料ビデオ→有料TVないし月額ストリーミング→無料TVという具合に分かれていた。

しかしながら近年は動画配信が急速に台頭してきており、5大スタジオに加えてネットフリックスやアマゾンといった新興勢力が登場した。その結果、ハリウッド映画事業の柱に据えられていた劇場での封切を経ずに、いきなり月額ストリーミングへの提供する事業モデルへと改革が進みつつある。

新興の動画配信プラットフォーム会社によるコンテンツ配信会社のM&Aと、逆に、コンテンツ配信会社による動画配信プラットフォーム会社のM&Aが今後も活発に行われ、業界の再編が進むだろう。



【図2】映画事業の競争概況

※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2021年6月5日号、大前研一ライブ#1062&#1069を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。